早起きして買いに行きたい!城下町金沢にある大正元年創業の老舗パン屋「Mori‐cho(モリチョウ)」
金沢市の兼六園に程近い、材木町にある老舗のパン屋さん「Mori-cho(モリチョウ)」。おおよそ、ベーカリーという言葉は似合わない、町家づくりの風情ある佇まいのお店は、白い暖簾をくぐると、パンのいい香りがぷんと漂う。朝6時半に店が開くので、地元の人は、その日の朝食に食べるパンを買いに行くことができる昔ながらのパン屋さんだ。「先々代がこの地でパン屋を始めたのは大正元年」と話す3代目の森 英雄さんは現在70歳を超えている。この地でパンを焼き続ける森さんに、お店の歴史やおすすめのパン、材木町の魅力などについて伺った。
Mori-choのはじまり
――「Mori-cho」沿革を教えていただけますか。
森さん:金沢で一番古いパン屋といわれている「桂月堂」で修業をした先々代が独立して開いたのが1912(大正元)年創業の「Mori-cho」です。当時は、橋場町にある金城楼の近くにお店がありました。材木町は今と違ってたくさんの商店が並んでいるにぎやかな場所だったので、こちらのほうがいいだろうと、1921(大正10)年頃に店を移転したんです。この店は、その時建てた建物のままなんですよ。2代目にあたる親父は若い頃に戦争にも行きました。戦後、親の手伝いをしていたことを思い出して、パン屋を再開したんです。
森さん:私が引き継いだのは28歳のとき。新商品をいろいろ開発する必要性を感じて、京都の「岩田風月堂」で修業した後、本格的にパン作りを始めました。昔のパン屋って時代に合わせて、いろいろなものを作っていたんですよ。先々代は焼いた和菓子も作っていましたし、親父はパン以外にカステラも焼いていました。昔は、今ほどパンが売れていなかったので、食べていくために工夫をしていたということでしょうね。以前は職人4人くらいで焼いていた時代もありましたが、今は女房と2人でやっています。
オーソドックスなパンに原点回帰
――パン作りで大切にしていることはありますか。
森さん:徐々にオーソドックスなパンを焼くようになってきました。「昔ながらのもの」ということでしょうか。おいしいと言われるお店に通って料理を食べても、いつもの普通の料理が食べたくなることってありますよね。パンも同じだと思うんです。最近になって、そういうところに行きつきました。普通のものをおいしく焼きたいと思っています。体力がある間は焼き続けていきたいですね。
――1番人気があるのはどのパンですか。
森さん:やっぱりクリームパンですね。カステラパンやあんドーナッツも人気があります。こういうパンを置いている店が少なくなっていますから。あとは食パンもよく出ますね。カステラやマドレーヌ、パウンドケーキといった焼き菓子も置いています。洋菓子も定番のものばかりです。
――創業当時から続いているパンはありますか。また、新しいパンはどのように生まれるのでしょうか。
森さん:昔は麹を使っていましたが、戦後イーストを使うようになりました。時代とともに味も変わってきているので、そのまま続いているものはないんですよ。逆に新しい商品については、仕事をしながら毎日考えていますね。最近では、サフランとフルーツが入ったパンを作ったのでお店に出し始めました。まずは人目を引かないとダメなので、デザインや色合いも大切にしています。
――長くお店を続けてこられた秘訣は何でしょうか。
森さん:パンは、毎日毎日同じものができません。そういう緊張感があって、工夫を重ねていくので、飽きないんでしょうね。その日の湿度や気温で入れる水の量が違います。水の温度でもパンの仕上がり具合が変わってきますから。イーストだから生きものなんですけれど、生きものを相手にしているようなものです。
――この味を継承していきたいと思いますか。
森さん:このまま、この店を引き継いでくれる人がいれば、うれしいですね。娘が2人いてお嫁に行ってるんですが、いずれ子育てが落ち着いたら後を継ぎたいと言ってくれています。ですので、店は残しておこうと思っています。
地域に根付くということ
――長くお店をしているからこそ感じる、地域との関わりはありますか。
森さん:近くの「まことこども園」と「兼六小学校」の子どもたちが見学に来てくれます。工場では、パンの作り方や機械について質問を受けたり、パンの生地を子どもたちが触ったり。パンの生地を触ると、子どもたちは大喜びしてくれるんです。普段食べているパンがどんなふうに生まれるのか、知る機会になっていると思います。あとで、写真とかお礼の手紙をくれたり、お母さんを連れてお店に来てくれたりして、うれしいですね。
――お客様とのやり取りで、印象に残っているエピソードを教えてください。
森さん:最近ですが、6時半の開店と同時に「むしょうにあんパンが食べたくなったから」と車で買いに来てくれたお客様がいらっしゃいます。「むしょうに」なんて言ってもらえるとありがたいなと思いますね。近頃は、普通のあんパンが手に入りにくくなっているのかもしれません。どこにでもありそうな普通のものを思い出すという気持ちは、誰にでもありますよね。だからこそ、私も「普通のものを作ろう」という気持ちになってきたんだと思います。
これからも変わることなく
――今後はどんな形で仕事を続けて行こうとお考えですか。
森さん:若い人が後を継ぐときには、イベントや何か新しい取り組みも必要になるかもしれませんが、私は体力に合わせてやっていければと思っています。
――これから金沢橋場町エリア周辺にお住まいの方へ向けてメッセージをお願いします。
森さん:古い落ち着いた町なので、子育て世代の方やリタイアしたご夫婦などでも、のんびり暮らしていただける土地だと思います。近江町市場まで自転車なら10分くらいでしょうか。兼六園や東山、卯辰山公園の花菖蒲園にも近くていいところですよ。そういったところを朝散歩した帰りに、寄ってくれるお客様も多いですね。ジョギングの途中に立ち寄って、店の前でクリームパンを食べる常連さんもいます。朝6時半から開けていますので、焼き立てのパンを買いに来てください。

Mori-cho(モリチョウ)
所在地 :石川県金沢市材木町3-8
電話番号:076-231-6317
URL:https://moricho.business.site/
※この情報は2021(令和3)年6月時点のものです。